「乳歯がまだ残っているけれど、永久歯が生えてくるスペースは足りているのか?」
「このままだと八重歯になってしまわないか心配…」
今回は、将来の歯並びを心配され小児矯正についてご相談いただいた、来月7歳になるお子さんケースをご紹介します。
現在は乳歯から永久歯への生え替わりの途中ですが、お口の中を確認すると、特に上顎の横幅が狭く永久歯が並ぶためのスペースが不足している状態でした。
患者様情報
年齢: 6歳
性別: 女性
初診時の状態



今回、上顎の第一大臼歯と第一大臼歯の間の幅を確認すると約35mmでした。
同年齢の目安となる約45mmと比較すると、約9~10mmほど狭い状態です。
この「約10mm」という差は、歯が生えてくるスペースを考えるうえで無視できない大きさです。
現在は乳歯が3本残ってますが、その後に生えてくる永久歯が同じ場所に入ってくるため十分なスペースが確保できなければ、歯が重なったり位置がずれたりする可能性があります。
特に将来的には、犬歯が生えるためのスペースが不足しいわゆる「八重歯」につながることも考えられます。
ご相談のきっかけ
ご家族は、
- このまま永久歯が生えてきてもきれいに並ぶか
- 八重歯になったり、歯がガタガタになったりしないか
- 今のうちに何かしておいたほうがいいか
といったご相談がありました。
そこで、現在の歯並びだけではなく、これから生えてくる永久歯の大きさや、歯が並ぶための顎のスペースについて詳しくご説明しました。
患者様との実際のやり取り
なぜ歯が並ぶスペースが足りなくなるのでしょうか?
歯並びには、生まれ持った顎や歯の大きさなど、遺伝的な要素も関係しています。
一方で、成長期の顎の発育には、舌や唇、頬の筋肉の使い方や呼吸など、日常的な「お口の使い方」も関係しています。
今回の場合は、特に上顎の横幅が狭いことが大きなポイントです。
上顎が狭いと、下顎の歯列も上顎の歯列に合わせるように内側に収まり、下顎の歯並びも狭くなってしまうことがあります。
そのため、下の歯のガタガタも下顎だけの問題として考えるのではなく、上下の歯列のバランスを見ながら治療していく必要があります。
下の歯も狭いのに、上顎を広げるのですか?
下の歯も少し狭く見えるのですが、下顎ではなく上顎を広げるのでしょうか?
下顎は上顎の歯列に囲まれているため、上顎ほど自由に横方向へ広げることができません。
そのため、まず上顎の幅を整え、上下の歯列のバランスを整えていくことで、下顎の歯列も本来の位置に収まりやすくなることがあります。
成長期だからできること
永久歯が全部生えてから治療を始めるのではなく、今から始めるメリットはありますか?
顎の成長は年齢とともに変化していくので、顎の骨の発育を利用しながら歯列を広げていく治療を検討しやすい時期です。
一方で、年齢が上がるにつれて骨の成熟が進むため、同じように簡単に拡大できるとは限りません。
そのため、「永久歯が全部生えてから考えればいい」ということではなく、永久歯がきれいに並ぶためのスペースがあるかどうかを、早い段階で確認しておくことが大切です。
どんな矯正になりますか?
上顎を広げるための装置はどんなものがありますか?
上顎を広げる装置には、大きく分けて「取り外し式」と「固定式」の方法があります。
「取り外し式の装置」
取り外しができるため、食事や歯磨きの際には外すことができます。
見た目やお口の中の清掃のしやすさというメリットがある一方で、
「外せるからこそ、つけるのを忘れてしまう」という点には注意が必要です。
特に学校では装置をつけたがらないお子さんもいるため、毎日の装着を継続できるかどうかが重要になります。
「固定式の装置」
歯に装置を固定するため、本人が「今日はつけたくない」と思っても、基本的には装着した状態を維持できます。
そのため、装着時間を自分で管理する必要がないことがメリットです。
一方で、食べ物が装置に挟まりやすかったり、歯磨きが少し難しくなったりするため、丁寧なブラッシングが必要です。
また、装置を入れたばかりの時期には、頬や舌が擦れるなどの違和感が出ることがあります。
装置を使うと、痛みはありますか?
上顎を拡大する治療では、装置によってはネジを回しながら少しずつ拡大していく方法があります。
その際に、圧迫感や痛みを感じることがあります。
ただし、痛みが強い場合には無理に進めるのではなく、お子さんの状態に合わせてネジを回す頻度などを調整していきます。
「痛くても我慢して続ける」ということではなく、お子さんが治療を嫌にならないように進めていくことも大切です。
子どもが毎日きちんと装置を使えるか心配です。
学校に装置を持っていく場合、なくしてしまわないかも気になります
小児矯正では、装置の種類だけではなく、お子さん自身が治療に前向きになれるかどうかも重要です。
特に取り外し式の装置では、決められた時間に装着する必要があります。
そのため、「歯医者さんに言われたからやる」という状態よりも、
「歯をきれいに並べるために自分も頑張ってみよう」と思ってもらえることが理想です。
装置を選ぶ際には、学校での扱いやすさ、装置を外した際の紛失の可能性、ご家庭での管理のしやすさなども含めて検討します。
お子さんが無理なく続けられる方法を一緒に考えていくことが大切です。
舌の位置も歯並びに関係します
歯を動かすだけでなく、舌の位置も治したほうがよいのでしょうか?
今回の治療では、歯を動かすことだけではなく、「舌を正しい位置に置くこと」も重要なポイントになります。
舌は本来、安静時に上顎に接していることが望ましいとされています。
舌が下がった状態が続くと、上顎に適切な力がかかりにくくなり、歯列の成長にも影響する可能性があります。
そのため、上顎を広げる治療と並行して、舌の位置やお口周りの筋肉の使い方を身につけていくことを目指します。
必要に応じて、機能訓練用の器具なども使用しながら、正しい舌位を習得していきます。
どんな流れで矯正をおこないますか?
今回のケースでは、まず詳しい矯正検査を行い、お口の中や永久歯の状態を確認したうえで、治療計画を立てていきます。
検査結果をもとに、実際の永久歯の位置や顎の成長状態を確認し、どの装置が適しているかを決定します。
治療開始後は、まず初期の装置を半年程度使用し、その後のお口の状態を見ながら装置を切り替える場合があります。
全体の治療期間は、およそ1年半~2年を目安として考えています。
装置は、起きている時間に約1時間、さらに就寝時にも使用する方法など、お子さんの状態に合わせて使用時間を設定します。
今回の治療方針
今回のお子さんについては、
「永久歯が生えてくる前に、
ことを大きな目標として治療を検討します。
具体的には、
① 上顎の拡大
狭くなっている上顎の歯列を成長期に合わせて拡大し、永久歯が並ぶためのスペースを確保します。
② 舌位の改善
舌を正しい位置に置くことを意識し、お口周りの筋肉を正しく使えるようにしていきます。
③ 装置による歯列のコントロール
お子さんの性格や学校生活、装着への協力度などを考慮し、固定式・取り外し式などから適した装置を選択します。
④ 定期的な経過観察
歯の生え替わりや顎の成長を確認しながら、必要に応じて治療方法を調整していきます。
まとめ
今回のケースでは、来月7歳になるお子さんの上顎の横幅が約35mmと、同年齢の目安と比較して狭く、永久歯が並ぶためのスペース不足が心配される状態でした。
このままスペース不足が続くと、永久歯が重なって生えたり、犬歯が本来の位置から外れて生える「八重歯」につながったりする可能性があります。
小児矯正では、現在の歯並びを整えるだけではなく、これから生えてくる永久歯がきれいに並ぶための「土台」を整えることも大切です。
また、治療を成功させるためには、装置による歯列の拡大だけでなく、舌を正しい位置に置くことや、お口周りの筋肉を正しく使うことも重要です。
お子さんによって、取り外し式の装置が向いている場合もあれば、固定式の装置のほうが治療を進めやすい場合もあります。
学校生活やお子さん本人の性格、装置への慣れやすさなども含めて、一人ひとりに合った治療方法を一緒に考えていきます。
「まだ乳歯だから大丈夫」と思っていても、永久歯が生えるためのスペースがすでに不足している場合があります。
お子さんの歯並びや顎の大きさについて少しでも気になることがあれば、永久歯への生え替わりが進む前に、一度ご相談ください。
この記事の執筆・監修者
相生おとなこども矯正歯科 院長
村木 駿介(むらき しゅんすけ)歯科医師
院長自身も子どもの頃に受け口で矯正を受け、その後の後戻りを経験して25歳で治療をやり直しました。その経験から、歯を並べるだけでなく、上あごの成長・呼吸・舌の使い方といった原因から考える矯正に取り組んでいます。徳島大学卒業後、医療法人社団翔志会 たけち歯科クリニック(マウスピース矯正京都総合クリニック/インプラントセンター京都)に勤務し、ベトナムでの小児歯科ボランティアも経験。現在は兵庫県相生市で、小児から成人までの矯正治療にあたっています。
- 日本顎咬合学会 会員/TDC・GPO 会員
- GPO矯正セミナー レギュラー・アドバンス・小児コース修了
- 顎顔面矯正セミナー修了/OMT小児矯正セミナー アドバンスコース修了
本記事は、相生おとなこども矯正歯科 院長・村木駿介(歯科医師)が執筆・監修しています。内容は診療ガイドラインや学会発表、記事内に記載の参考文献をもとに作成していますが、症状や適切な治療方針には個人差があります。気になる症状がある場合は自己判断せず、歯科医院にご相談ください。

