前回の内容から、さらに「気道」についてふかぼって解説しようと思います。
「鼻づまりがある」「いびきをかく」「口を開けて寝ている」
こうした呼吸のサイン、実は“歯ならび”や“あごの成長”と深く関係しています。
近年の研究では、気道(上気道)と歯ならびの発育は互いに影響し合うことが明らかになっており、歯科・矯正分野でも「呼吸を考慮した咬合育成(airway-oriented orthodontics)」が注目されています。
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■気道とは? そしてなぜ歯ならびと関係するのか
「気道(Airway)」とは、空気が鼻や口から肺へ通る通り道のこと。
上あご(上顎骨)や下あご(下顎骨)は気道の“骨の枠”を形づくっており、あごの大きさや位置が変わると、空気の通り道の広さも変化します。
つまり、歯ならびやあごの発育は「見た目」だけでなく、「呼吸のしやすさ」にも影響を与えるのです。
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狭いあご=狭い気道? 近年の研究が示す関係
上顎が狭い・下顎が後退している子どもは、気道が狭い傾向があると報告されています。
こうした特徴は、口呼吸やいびき、さらには小児睡眠時無呼吸症候群(OSA)の発症リスクを高めることがわかっています。
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小児期の口呼吸が「気道発育」に与える影響
口呼吸の習慣は、気道の成長にも悪影響を与えます。
舌が常に低位(下に下がった位置)にあると、上顎の発育刺激が減り、上顎が横に拡がらず、鼻腔も狭くなる傾向があります。
歯科でできる「気道を広げる」アプローチ
① 上顎拡大
上顎を少しずつ広げる矯正法で、鼻腔や上気道の通気性を改善できることが複数の研究で報告されています。
② 下顎の位置を改善する機能的矯正
下顎を前方に誘導する装置は、舌の根っこを前方向へ移動させることで気道を拡げ、呼吸を改善します。
歯ならび・気道・姿勢のつながり
近年では、呼吸と姿勢の関係も注目されています。
下顎後退や口呼吸により頭が前方に出る「前方頭位」は、肩こりや顎関節症の要因にもなります。
歯科での気道治療は、単に空気の通り道を広げるだけでなく、全身バランスを整えるアプローチにもつながります。
当院での取り組み
当院では、歯ならびや咬み合わせを診るだけでなく、
「気道」と「呼吸」の観点を含めた矯正診断を行っています。
• CT気道の評価
• 口呼吸・鼻閉・いびきの評価
• 耳鼻科との医療連携
お子さまの「寝ているときの口の開き」や「いびき」が気になる場合は、
歯ならびの問題だけでなく“気道の発育”という視点からも早めにご相談ください。
参考文献
- Camacho M, et al. Sleep Breath. 2023;27:911–923.
“Association between craniofacial morphology and airway size in children.” - Li X, et al. Angle Orthod. 2024;94(3):221–229.
“Three-dimensional evaluation of airway space and maxillary constriction in children.” - Pacheco AB, et al. J Oral Rehabil. 2022;49(10):1093–1105.
“Impact of chronic mouth breathing on craniofacial growth and airway development.” - Villa MP, et al. Pediatr Pulmonol. 2024;59(2):310–322.
“Effects of rapid maxillary expansion on airway volume and sleep parameters in children.” - Huynh NT, et al. J Clin Sleep Med. 2023;19(4):745–754.
“Functional appliances and upper airway dimensions in growing patients: a meta-analysis.” - AASM Clinical Practice Guideline, J Clin Sleep Med, 2023.
“Oral appliance therapy for the treatment of OSA in adults.”
このように、「気道」と「歯ならび」は密接に関係しています。
見た目の歯ならびを整えるだけでなく、「よく眠れ・よく息ができる」体づくりを目指すことが、
これからの矯正治療の大きなテーマです。
【執筆・監修者】
あいおいこども矯正歯科 院長
村木駿介 (歯科医師)
顎咬合学会会員