「歯ならびと睡眠の関係について」
みなさんは「歯ならび」と「睡眠」が実は深く関係していることをご存じでしょうか?
近年の研究では、歯ならびやあごの形態が睡眠の質や健康に影響する可能性が明らかになってきました。
ここでは、「歯ならびと睡眠の関係」についてご紹介します。
睡眠時無呼吸症候群と歯ならび
睡眠と歯ならびの関係で最も注目されるのが「 睡眠時無呼吸症候群」 です。
これは、睡眠中に呼吸が繰り返し止まってしまう病気で、いびきや日中の強い眠気を引き起こします。
睡眠時無呼吸のリスク因子として最もよく知られているのは肥満ですが、実はそれ以外に 「顎や頭の形の違い」も関与すると報告されています。具体的には、
• 上あごや下あごが小さい
• 下あごが後方に位置している
• 歯ならびが乱れていてかみ合わせが不十分
といった特徴があると、気道が狭くなりやすく、いびきや無呼吸が起きやすいのです。
成人の有病率について
睡眠時無呼吸症候群は決して珍しい病気ではありません。
年齢にもよりますが、有病率は5%〜30%といわれています。
このように、比較的身近な疾患であるといえます。
子どもの歯ならびと睡眠
子どもの場合、歯ならびやあごの発育不良が「小児閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」と関連すると報告されています。
子供の睡眠時無呼吸症候群は発達や学習、行動に影響を及ぼします。
米国小児科学会(AAP)のガイドライン(Marcusら, 2012)では、
• いびきが大きい
• 口呼吸が多い
• 睡眠中に体がよく動く
といった症状がある子どもは睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、歯ならびや顎の成長状態の評価も重要とされています。
また、矯正治療によって、無呼吸の指標が改善するケースが多く報告されています。
睡眠の質が健康に与える影響
睡眠の質が悪くなると、単に疲れやすくなるだけでなく、全身の健康にも影響します。
• 高血圧や心臓病のリスク増加
• 糖尿病や肥満との関連
• うつ症状や集中力低下
このように、睡眠障害は生活習慣病やメンタルヘルスのリスクとも深く関係しているのです。
歯ならびが原因で睡眠の質が下がると、間接的に全身の健康リスクを高めることにつながりかねません。
つまりお子様の正しい成長にも深く関係しています。
気をつけたいサイン
次のような症状がある場合は、歯ならびやかみ合わせと睡眠の関係をチェックしてみる価値があります。
• 大きないびき
• 睡眠中に呼吸が止まっていると言われた
• 日中の強い眠気
• 子どもが口を開けて寝ている
• 集中力が続かない、落ち着きがない
これらは「睡眠の質が低下しているサイン」であり、歯科や耳鼻科での評価が勧められます。
歯科でできるサポート
歯科医院では、睡眠の質を改善するために以下のようなサポートが可能です。
1. 歯ならびやあごの評価
口腔内やX線で顎の大きさや気道の広さを確認します。
2. 矯正治療
子どもの場合は顎の成長を利用した治療で気道が広がることがあります。成人でも歯ならびの改善で呼吸がしやすくなるケースがあります。
3. スリープスプリント(口腔内装置)
下あごを前に出す装置が有効とされ、睡眠中の呼吸を助けます。ただし、重度の場合ではCPAP療法が第一選択であり、医科と歯科の連携が重要です。
まとめ
歯ならびと睡眠は密接に関わっています。
歯ならびや顎の形が原因で気道が狭くなると、いびきや睡眠時無呼吸が起こり、全身の健康リスクにつながることがあります。
特に子どもの場合は発達や学習に関わるため、早めの相談・対応が大切です。
「いびきが気になる」「子どもが口呼吸をしている」などのサインがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
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📚 参考文献
• Malhotra A, White DP. Obstructive Sleep Apnea. N Engl J Med. 2002; 347: 498-504.
• Eckert DJ, Malhotra A. Pathophysiology of adult obstructive sleep apnea. Proc Am Thorac Soc. 2008; 5(2): 144–153.
• Marcus CL, et al. Diagnosis and Management of Childhood Obstructive Sleep Apnea Syndrome. Pediatrics. 2012;130(3):e714-e755.
• Camacho M, et al. Rapid maxillary expansion for pediatric obstructive sleep apnea: A systematic review and meta-analysis. Laryngoscope. 2017;127(7):1712-1719.
• Ramar K, et al. Clinical Practice Guideline for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea with Oral Appliance Therapy. J Clin Sleep Med. 2015;11(7):773–827.
【執筆・監修者】
あいおいこども矯正歯科 院長
村木駿介 (歯科医師)
顎咬合学会会員